Ⅰ.瑠璃の章

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「お前が、『瑠璃の巫女』か!」 シドに二の腕を掴まれた。 「キャッ!」 「ランっ!」 マトがシドに殴り掛かろうとした。 その途端銃口がマトに向けられた。 「だめ!打たないで!」 「お前が我々と共に来るなら、村人全員解放してやる。無論そこの老婆もだ」 シド・フォーンの見下した言い方に、頭に血が上ったが、それをぐっと抑えて蘭は頷く。 「行くよ。だから、みんなをこれ以上傷付けないで」 「いいだろう」 満足げに頷くと、シド・フォーンは周りを取り囲む兵士を見回しながら撤退を命じた。 その声を受け、兵達が一斉に動き始める。 「絶対、村の人達に危害を加えないでね」 冷酷な彼に、そんな約束がきくのか不安に思いながら、もう一度念を押した。 「約束しよう。目的は果たした」 シドはそう言って、蘭の手を引きながら歩き始めた。 「ランっ!」 マトに首を振って答える。 蘭がシド・フォーンと行けば、村人は助かる。 それを十分に分かっているからこそ、マトは歯がみしたい思いでいた。 (俺に力があったなら!力が欲しい。誰も傷付かないで済むくらいの、強い力が!) そんな彼を嘲笑うように、シドは蘭を連れて行ってしまった。 足許で、老婆がよろめく。 「ばあちゃんっ!」 慌てて支えると、思いの外力強く手を握られた。 「私を岩場に連れて行っておくれ。倒れてしまう前に……」 めったに自らはそんなこと言わない。
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