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ラジオが、第二次世界大戦の始まりを告げている。
私は縁側に腰掛け、庭に立つ大きな桜の木を見上げた。
「今年も立派に咲いたね」
私が生まれた日から14年間、この木は私と一緒に育ってきた。
父も母も桜が大好きで、狭い庭だけど5本の桜の木が植えられている。
その中でも一際大きいのがこの桜。
そして、桜好きな両親は…
「櫻!」
「はい、ここです!」
娘の私に、櫻という名前を付けた。
「今日父さん達は外食してくるが…櫻はどうする?」
「おばあ様がいるんでしょ?私も残ります」
「そうか、わかった」
父さんは頷いて、玄関に向かった。
母さんはもう靴を履き、鏡の前で髪を整えている。
母さんはおばあ様と仲が悪く、父さんはそんな二人を気遣いよく外食に行く。
私は気分によって、おばあ様と家に残るようにしていた。
「じゃあ、いってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
二人を見送る為、家の門まで出た。
塀から桜の枝が飛び出し、二人の後ろ姿に重なる。
父さん達の背中が見えなくなったと同時に、むこうから人が歩いてきた。
見掛けない顔…
特に気に掛けず、私は家に戻った。
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