出会い

3/4
前へ
/58ページ
次へ
すっかり日も暮れ、空には月が輝いている。 「ごちそうさま。おばあ様、片付けは私がやるから、お部屋でゆっくりしてください」 「そうかい?櫻は優しいねぇ。ありがとう」 そう言っておばあ様は席を立った。 食事の後片付けをし、雨戸を閉めに縁側へ向かう。 廊下をさす光が、私の足を青白く照らした。 「今日は満月かぁ」 空を見上げ呟いた私の視界に、ふと何かが映った。 「…誰?」 塀のむこうに見えた頭が、ひょいと背伸びをした。 「あ…どうも」 「…?」 夕方、父さん達とすれ違った人だった。 20歳前後くらいの青年。 短髪に白のワイシャツを着て、脇に何か書物を抱えている。 彼は背伸びをしたまま、話掛けてきた。 「立派な桜ですね。花も幹も葉も…。夕陽に照らされた姿も素敵でしたけど、夜桜もなかなか…」 「えっ?夕陽って…あれからずっとここに?」 「あれから…?」 青年は首をかしげたが、あまり考えずにまた話を続けた。 「この家のお嬢さんですか?」 「あ…はい、そうですけど…」 「僕は、2日前からそこの家で下宿している者なんですが…よろしかったら明日からしばらく、この家に出入りさせて頂けませんか?」 「えっ、出入り?」
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加