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すっかり日も暮れ、空には月が輝いている。
「ごちそうさま。おばあ様、片付けは私がやるから、お部屋でゆっくりしてください」
「そうかい?櫻は優しいねぇ。ありがとう」
そう言っておばあ様は席を立った。
食事の後片付けをし、雨戸を閉めに縁側へ向かう。
廊下をさす光が、私の足を青白く照らした。
「今日は満月かぁ」
空を見上げ呟いた私の視界に、ふと何かが映った。
「…誰?」
塀のむこうに見えた頭が、ひょいと背伸びをした。
「あ…どうも」
「…?」
夕方、父さん達とすれ違った人だった。
20歳前後くらいの青年。
短髪に白のワイシャツを着て、脇に何か書物を抱えている。
彼は背伸びをしたまま、話掛けてきた。
「立派な桜ですね。花も幹も葉も…。夕陽に照らされた姿も素敵でしたけど、夜桜もなかなか…」
「えっ?夕陽って…あれからずっとここに?」
「あれから…?」
青年は首をかしげたが、あまり考えずにまた話を続けた。
「この家のお嬢さんですか?」
「あ…はい、そうですけど…」
「僕は、2日前からそこの家で下宿している者なんですが…よろしかったら明日からしばらく、この家に出入りさせて頂けませんか?」
「えっ、出入り?」
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