31人が本棚に入れています
本棚に追加
正太郎さんがいなくなって間もなくの事。
春を迎えるより先に、私たちの町にも空襲警報が鳴り響くようになった。
私たちは毎日のように防空壕に逃げた。
逃げては怯え、その度に正太郎さんや父さんを思った。
そんな日々を過ごしたある日。
お婆様が言った。
「二人とも…この町はもう危ない。息子や正太郎くんの事も気になるけど…この町から逃げよう?」
「えっ!?」
母さんは黙って頷いたけど、私はそうもいかなかった。
「駄目だよ…私、正太郎さんと約束したの。あの桜の下で会おうって。だから、次の春まで待って。正太郎さん必ず帰って…」
「櫻…気持ちはわかるけど…もしこの町に残って櫻が死んだら、正太郎さんは戻る場所を無くすでしょ?」
母さんの言葉に、ドキッとした。
死ぬ…この町も危ないんだよね…
あまりにも実感がないけど、現状は母さんやお婆様の言う通りだった。
母さんは続ける。
「私も父さんの事はすごく心配です。でも…私が待っていないと、あの人を迎える人がいないから。私は…私たちは、生きなきゃいけないんですよ」
「そうだよ、櫻。…安全な町で、正太郎くんを待とう」
お婆様にも言われ、私は下を向いた。
そして…小さく頷いた。
ラジオは今でも、日本の優勢を伝え続けている。
最初のコメントを投稿しよう!