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彼の名前は松田正太郎さん。
静かな土地で本を書こうと思い、東京を離れてこの町に来たらしい。
「僕が今書いている物語には、桜が出てくる。その描写をうまく書きたい」
そういう理由で、彼はこの家への出入りを求めた。
その日の内に父さん達に話したら、自慢の桜を誉められた事ですっかり気を許し、あっさり許可してくれた。
翌日、再び足を運んだ正太郎さんにその事を告げると、さっそく原稿とペンを持って家に来た。
「お邪魔します」
正太郎さんが父さん達に会釈をすると、私の案内で縁側に向かった。
「あの、私の使っている机なんですが…良かったら使ってください」
「あぁ、ありがとう櫻さん」
彼は優しい笑顔を向けてくれた。
そしてじっくり桜を眺めると、こう呟いた。
「綺麗な桜だ…」
その言葉に、思わずドキッとした。
私の事じゃないとわかっているのに…
その人の口から漏れたその言葉が、すごく気になった。
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