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私は顔をあげた。
1kmくらい先に、桃色の花を咲かせた木が見える。
見覚えのある…桜…
「あったぁ!!」
私は夢中で走った。
戦地にたった一本残った、あの桜。
周りの木は燃えてしまっているのに、その桜だけは咲き誇っている。
まるで戦争なんてなかったかのように、繊細な色を振り撒いている。
私は桜の下に立った。
懐かしい桜の匂いがする。
花びらが頬を撫でる感触は、幼い頃から変わらない。
「待っててくれてありがとう」
私は桜の幹を撫でた。
そして辺りを見回す。
「正太郎さん…来るかな…」
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