31人が本棚に入れています
本棚に追加
花びらが夜風に舞う。
私は布団に体をうずめながら、桜の木を見上げていた。
もうすぐ満月になるのだろう。
少し欠けただけの明るい月が、夜桜を照らす。
「桜…お願い、散らないで。正太郎さんを待っていて。あなたが散ってしまったら、あの人は帰る場所を見失ってしまうわ」
私の小さな呟きなど聞こえないと言わんばかりに、花びらはひらひら舞い落ちる。
正太郎さん…何してるんだろう…
戦争はもう終わった。
桜の季節になった。
あとは帰ってくるだけじゃない…
嫌な予感を忘れようと、私は何度も心の中の彼に話しかける。
早く帰ってきて。
待っているから…早く…
私の祈りは届かなかった。
一週間がすぎて、桜の花は…散った。
最初のコメントを投稿しよう!