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頬をなぜる風も徐々に冷たくなってきた10月。どこからか、小さく小気味良い鼻唄が聞こえてくる。
短く整えられた錦糸の様に美しい金髪を風のままになびかせ、時にはその跳ねっ毛を弾ませながら、上質なエメラルドのように美しいその双つの瞳をきらきらと輝かせ歩く、眉毛が少しばかり特徴的な一人の男がいた。アーサーである。
黒色の使い込まれた革手袋を嵌めた両手には、一抱えもある膨れ上がった紙袋を大事そうに抱えている。
どうやら先程の鼻唄は彼のものであったようだ。今日の彼は心なしか浮かれていた。
「っあー 今日という日をどれだけ待ち侘びたことか!……あっ、べっ別にお前らが人間と接触したがってるから毎年企画してやってるとか、俺自身毎年楽しみにしてるとか、そんなんじゃないんだからな!かっ、勘違いすんじゃねーぞばかぁ!」
一人で歩く彼の周囲には、他に誰かいるのだろうか。仮にそうであったとしても、会話の内容から恐らく相手は人ではないことが伺える。…まぁ、彼とて同じといえば同じなのだが。
昔から少しでも照れ臭いとどうにも素直になれない性分である彼は、見えない何者かに必死で言い訳をしながらも、どこか幸福そうに見えた。
「とにかくっ!お前ら、今夜は存ッ分に悪戯してこいよな!何てったって、今夜はハロウィンなんだからよ!!」
―…ハロウィン。
それは10月31日に行われる伝統行事。ケルトの収穫感謝祭がもとで、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり精霊や魔女が出てくると信じられていた。
今では自分の家を艶やかに装飾し、賑やかなパーティーを行ったり、子供や若い大人達が仮装をしたりもする。
仮装をした子供達は街を練り歩き、家々を訪ねては魔法の合言葉でその家の大人からお菓子をもらうのだ。
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