いのち

　
それきりお互いに何も話さないまま階段を下り、ホームに着くと電車がもう駅まで迫っていた。

「鞠戸？」

電車の走る音で聞こえなかったのか、私の呼び掛けに鞠戸は振り向かない。

それが聞こえなかったふりなのかどうかはわからないが、私は心配になってあれこれと考えていた。

彼女が話し出すのを待つ方がいいのか、私から切り出した方がいいのか…。

「詩織、乗らないの？」

気が付くと電車はもう到着していて、降りてくる人々が私達を邪魔そうによけていた。

『扉が閉まりますのでご注意ください』

もう駆け込まないと間に合わないと思ったが、私は鞠戸に向かって口を開いた。

「あのさ、何かあったんじゃないの？」

鞠戸は一瞬驚いたように目を見開いて、それからまいったというように笑った。

「やっぱ詩織には隠し事できないなぁ」

その時再びアナウンスが流れた。

『まもなく２番線に電車が参ります…』

１番線の電車が発車するのと入れ違いで、２番線の電車が到着する。

再びホームが人でいっぱいになった。

「ごめん、やっぱ明日ゆっくり話す！明日の放課後空けといてね」

鞠戸は作り笑いでそう言うと、手を振って電車の中へ消えていった。