時計

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「えっ! そうなんですか」 「あなた!」  由美子が孝夫の袖を引いた。 「あっ、すみません。買いませんから」  由美子は係員にそう言い、孝夫の背中を押した。  孝夫の転勤に伴う引っ越しが一段落したところで、新しい街のショッピングモールに必要な物を買いに来たのだ。  時計を買いに来たわけではない。  引っ越しが終わるまで、娘の優美は母が泊まりがけで面倒をみてくれている。  娘は絵本が好きだ。コンビニで無料配布されている『ボノロン』は特に娘のお気に入りで、何度でも、読んで欲しいとせがまれる。  母も、きっと今頃は絵本を繰り返し読まされているに違いない。  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「さてと……毛布も買ったし、優美のぬいぐるみも買ったし、腹も減ったし、帰ろうか?」  大きなクマのぬいぐるみを抱え直し、孝夫が言った。 「そうね。……待って! あれ何かしら?」  由美子が指を差した先には催事場があった。  インテリアの催し物らしい。 「ちょっと、見ていこうよ」  そう言って由美子は、歩き出した。  夫は素直に連いて来ると思ったのだが……。
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