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『お客様、こちらの時計はあなた様のところへ行きたがっているのかも知れませんよ。この仕事を長くやってますと、なんとなく判るのです』
時計売り場の係員はそう言っていた。
このドレッサーは、私のところへ来たがっているのかも?
由美子が、そんな勝手な思いを巡らせていると、不意に背後に人の気配を感じた。
「ここに居たのか! 外から見えなかったから、どこへ行ったかと思って、あせったよ。腹減ったよ。なにか食べよう」
孝夫の声で由美子は我に返った。
「あっ、そうね。ええ、行きましょ」
午後二時を回ってもレストラン街は、混んでいた。何でもいいから早く食べたいと言う孝夫の希望に合わせて、空いている和食の店に入った。
着物姿のウエイトレスに案内されて、席につくと、孝夫はカタログをテーブルに置いた。
「ラジコンヘリの新型が出たんだ。いやあ、驚いたね。ラダーの反応が早くて操作性がぐんと良くなってる。店の中だから飛ばせないけど、ちょっとだけ触らせて貰ったんだ。送信機も軽くて使い易いんだよ」
孝夫は目を輝かせながら説明する。
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