時計

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「ふーん。でも、買わないでね。一つあるんだから。それに来年にはもう一人、産まれるんだからね」  由美子は二人目の子供を宿している。だから、思い荷物を持たないように気をつけているのだ。 「う、うん。解ってるよ。20万円だからね。貯金してからでないと」 「お客様、なんになさいますか?」  ウエイトレスは、ずっと待っていたらしい。 「あっ、麦とろ定食で」  孝夫は、すかさず注文した。店に入る時から決めていたようだ。 「私も同じものをお願いします」  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇  今度の社宅は3LDKで、三人家族が住むには充分な広さだった。四人目の家族が誕生しても生活空間に不足はない。  孝夫は連日、帰りが遅くなった。 「現場を覚えるのに大変なんだよ。ISOの外部審査に備えて、内部監査があったんだけど、早速、不適合箇所とファイルの不整合を指摘されて、手直しを指示されたんだ。資材の管理場所が移転してるのに、図面もファイルも前のままになってる。面倒なのは機械課と資材管理課と共有のファイルなんだ。当分の間は休み返上だよ」  と孝夫が説明してくれるが、由美子には夫の職務がどんなものなのかイメージ出来ないでいる。 解っているのは、孝夫が電気課に所属する職員であること。そして、転任早々に面倒な仕事を押し付けられたらしいと言うことだった。  孝夫のラジコンヘリは埃を被ったままになっていた。
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