時計

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 転任して、ひと月が過ぎた頃の事だった。  その日、孝夫は珍しく夕刻に帰宅した。 「おーい、由美子。ニュースだ。今度、係長に昇格したんだ。今日、正式に辞令をもらったよ」  玄関を入るなり、孝夫が張り切った声で、そう話しながらキッチンへ顔を出した。 「外部審査が終わった後に工場長室に呼ばれたから、何かなと思ったら、昇格の辞令だった。課長と部長の推薦があったらしい」 「あら、そうなの。すごい! 良かったわね。頑張ったものね」 「うん。まあ、その分、忙しくなるけどな。工場でトラブルがあったら、すぐに呼び出しがかかるし、どっからでも駆けつけることになるし」 「じゃあ、お祝いしなくちゃね。お給料も上がるんでしょ」  由美子は、現実的な事に関心が向く。 「うん、資格手当てと役職手当てを合わせて2、3万だけどね」 「パパ、おかえり」  三歳になる優美が、とことこと歩いて来て孝夫に手を伸ばした。 「おーっ、ゆみちゃん、ただいま。パパは頑張ったよ」  孝夫は、優美を抱き上げ、上機嫌でリビングへ入った。
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