新人類史

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 彼らはかつて発展した人類の歴史を指して、「先史人類」と呼び、自分達を「イドゥ」と呼んだ。だがそれは誇張にすぎない。一言で「イドゥ」といっても、人類そのものが生物的に進化したわけでもない。確かに、新天地の5大陸にもさまざまな新しい民族、国家、宗教がおこった。とはいえ、支配者の傲慢によって不毛な戦争が起こることもあれば、協調と繁栄を促そうとする人々もあらわれる。新たな技術を開発する者もいれば、それを妬んで盗んで壊そうとする者もいる。要するに人の営みは、「先史人類」と比べて何にも変わっていないのである。  西暦110世紀に差し掛かると、「イドゥ」の歴史に新たな起点が見られた。それは、アッデラ大陸の都市国家センデッタに住む元弁護士ガラン・ガランドウが説き始めた、ある宗教によるものである。彼は事故により瀕死の重傷を負い、奇跡的に生還したのち、自らの経験を元に、人間存在としての可能性を開くための瞑想法について、無償で講演をするようになる。温和な性格のガランによる、分かりやすく聞き心地のよい説法は多くの大衆の心を掴み、急激な速度で信者を増やした。そしてついに彼は、イクトーマヌエンの瞑想を広めるための「ガラン教」を設立するに至る。以来、「ガラン教」は170年の時を重ねて、世界的な宗教へと発展していった。それは、「イドゥ」の歴史において、「西暦」ではなく、主に「ガラン歴」という暦が使われる所以でもある。
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