差しのべられたのは

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日差しは木の葉を通しても、眩しかった。 故郷の空はいつも排気で灰色だったのが、嘘のようだった。 故郷にはいつ戻れるか。もう戻れるかすらわからない。 私の国─黒の王は隣の紅の国に戦いを挑んだ。 私は今戦火を避け、蒼の国にいた。 隣国の戦争など嘘のようにこの国は静かだ。 爽やかな風を感じながら、私はうたた寝を始めた。 誰かが私に近づいてきた。眠りはじめてどれほど時が流れたか知らないが、私はもっとこの心地よさに浸っていたかった。 「誰だ。人が気持ちよく寝ていたのに」 私はすぐに後ろに半歩飛び、状態を低くして愛刀・霧絶を構えた。 「怪我人じゃないのか?」 近づいてきた男は随分な優男だった。女のように青い髪を纏めて、簪で留めている。着ているものもおそらくは高価なものであろうが、森を歩くにはあまりに引きずりそうな長い着物だ。 「良かった。何処も怪我してないなら。私は回復魔法は使えないからどうしようかと思った」 優男は刀を向けられているにも関わらず、やんわり微笑んだ。 心底、平和ボケした、貴族のボンボンか… だが、気を緩めてはならない。油断させて、ということもある。 「ねぇ、君は何故こんなところにいるの?」 変わらず笑顔を絶やさずに話しかけてくる。 「関係ないだろう。私がどこでどうしてようが」 私は吐き捨てるように言った。 「いや、関係あるよ。君は黒の国の住人だろ?」 優男の表情は変わらないが、急に私の背筋が凍りついたかのようになる─いや、実際に周りの空気が急速に冷えていく。 「ごめんね。疑わしいものはやっぱり早めになんとかしないと後悔しそうだから」 外れてほしい予測だったが、しっかり当たった。ほらな、油断させてなんとやら。もっとも、油断しなくてもだめだったようだ。凍結魔法の速度が速すぎる。優男の実力の前に、私は自由を奪われ、やがて意識も途絶えた。
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