揺れる

2/6
前へ
/341ページ
次へ
「ただいまぁ~」 アパートの玄関を開けると、シンはテレビを見てくつろいでいた。 「おう、お帰り。 楽しかったか?」 「まぁまぁかな」 無造作にブーツを脱いで、暖房で暖まった部屋に入る。 コートを脱ぎ、ハンガーにかけた。 あたしのお気に入り、クロエのハンガー。 これも、明日持って帰ろう。 「片付け進んでる~?」 「うーん、引っ越しって何回やっても手順が分かんないわ(笑)」 部屋の中には、中途半端に物が詰まった段ボールや、捨てられる服の山が出来上がっていた。 「やっぱ荷造りすると、ちょっと実感沸くねぇ」 積まれた本の表紙を撫でながら、しみじみと思う。 けれど不思議と、寂しいという想いは無かった。 離れたくないなんて思う段階の2人でもないし、浮気はもちろん、お互いの気持ちが冷めるんじゃないかなんて心配も、まるでしていなかった。あたしは。
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

964人が本棚に入れています
本棚に追加