一章

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深夜の3時を回れば客足も減ってくる。手の空いている者から店の片付けを始めていた。 俺も最後の客を帰し、片付けに取りかかる。 「あ~もう…最近の客って何か香水強すぎ。レンさんもそう思いません?」 「…別に。あんまり気にならないけど?」 なんせ、ホスト歴6年ですから。 そう言えば、後輩であるトウヤは何処か納得した表情を浮かべる。 「俺なんてまだ1年ちょっとですからね~…」 ため息混じりに言われてもこっちが困る。 俺にどんな切り返しを求めているのだろうか。 「まぁ、いずれ慣れるさ」 直ぐに頭に思いついた言葉で返事をする。 いくらホストでも仕事外で、しかも同業者の男に気の利いた言葉を掛けてやれる程の体力は残っていない。 「あと5年もすれば?」 茶目っ気たっぷりに言われれば、俺は笑顔で返すだけだった。 決して男が嫌いだとか、トウヤが嫌いだとか、そんな事ではない。 ただ、眠いだけだった。 早く自宅に帰り、疲れた体を癒したい。それだけだ。
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