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そのうちお迎えがくるだろう。
ならそれまでの間は好きな事しててもいいよな。
どうせ死んじゃったんだし、やりたいようにやってやる。
何事も前向きに!
これが僕のモットーだ。
とりあえず織枝に会いたい。
「父ちゃん、織枝のとこ行ってくる」
僕が声をかけても父ちゃんは振り向かない。
でかい背中を震わせながら、父ちゃんは鼻をすすっていた。
母ちゃんと並ぶ、僕らの仏壇の前で。
「…父ちゃん」
何だか見ていられなくて、僕は部屋を抜け出した。
ついいつものクセで玄関の戸を開けようとした。
僕は我が目を疑った。
僕の手が掴めない取っ手をすり抜けていたから。
「嫌だーー!超こえぇー!」
僕は幽霊とかお化けとか苦手です。
だって怖いじゃん!
玄関が開けられず一人でパニクっていると、ふいに首根っこを掴まれた。
「へ?」
振り返ると、何だか僕の好みの女の子が冷めた視線を僕に注いでいる。
しばらく見つめあっていると、その女の子が口を開いた。
「顔かせ」
女の子はグイッと僕の首根っこを引っ張り上げる。
僕はネコのようにプラーンと、彼女に持ち上げられていた。
「あ、あの…」
訳が分からず、おずおずと女の子をうかがう。
すると目の前にいきなり天井が迫ってきた。
「ええぇぇぇ!?」
「うるさいな!静かにしてよ!」
もうその後の事はあんまり覚えてない。
とりあえず分かる事は、彼女が僕を持ったまま屋根をすり抜け、僕は空を飛んだって事くらいだ。
僕は死んでるけど、もう一度死ぬかもしれないと思った。
ぐったりとひれ伏す僕をこんな状態にした女の子が、ため息混じりにぼやく。
「全く…何であたしが、あんたみたいなバカの使いっぱしりな訳?冗談じゃないわよ」
女の子は、見た目は可愛いのに厳しい口調だ。
…嫌いじゃないけど。
「神様もお人が良すぎるわ。こんなバカに助け船だなんて…何を考えてらっしゃるのかしら」
ついでに彼女はちょっと頭がおめでたい人らしい。
使いとか、神様とか…僕からしてみれば彼女こそ何を考えてるのか分からなかった。
思わず笑い出す僕を、女の子は苛立たしげに睨んできた。
「はぁ…仕方がない。とにかく、あんたをちゃんと天国に連れてくのがあたしの仕事なの」
「アナタは誰ですか?」
「あたしは天使のキラ」
…ついに僕まで頭がおめでたくなったようです。
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