僕らの距離

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織枝が笑うなら僕も笑う。 必死で笑顔を作ろうとしてみたけど出来そうにない。 今度は僕が泣く番だった。 「…勘弁してよ」 堪えてたものが、望んでもないのに次々と溢れてくる。 僕が僕のままで過ごせる未来なんてありゃしない。 分かってるから余計に…。 「マジで出るぞ?ホントは天国なんか行きたくねぇんだよ。僕だってずっと一緒にいたいよ」 余計に寂しくなるんじゃないか。 僕らの、この埋めようのない距離が寂しくて、涙が止まらない。 「ごめん、夜彦!私…」 織枝が一際大きな、悲鳴にも似た声で叫んだ時。 目の前に光が溢れた。 降りしきる雨が眩しく光り、空へと昇って行く。 辺りがパッと明るくなり、突然の出来事に僕らは驚いて言葉が出てこない。 雨が止み、晴れた空に輝く満天の星。 何が起こったのか分からず、二人とも涙なんかすっこんでただ唖然と空を見上げた。 「天の川、だね」 うっとり空を見上げたまま、織枝がポツリと呟いた。 織枝はこういう、夢みたいにロマンチックなものがとても好きなんだ。 小さくため息をつき、僕の顔を覗き込んで織枝は笑った。 「織姫と彦星だね、私達」 「はぁ?」 夢見がちな織枝らしい、何ともとぼけた発言だ。 そしてまた、視線を空へ投げた。 しばらく夜空を眺めていると幾分気持ちも落ち着いてきた。 もう一度だけ話してみよう。 あの役立たず天使は、僕に織枝を助けてやれと言った。 僕にしか出来ないならやるしかない。 織枝を未来へ歩かせなきゃ。 「織枝が僕を殺したと言うのなら、今織枝が死んだら殺したのは僕って事になる」 僕の言葉に驚き、目を見開いた織枝は全力でそれを否定した。 「それは違うわ」 「違うだろ?だから僕も、お前に殺されたなんて思ってないよ」 僕の言葉を否定した、つまりはそういう事だ。 自分を責める人間って奴は、同じ状況になった他人の事をかばいたがる。 だけど否定した時点でその矛盾に気付くんだ。 ちょっと強引だけど、僕にしてはなかなか頭が良い。 また滲む織枝の涙を指で拭いながら思いきり笑顔で僕は言った。 「絶対織枝に会いに来るから。それまで笑って…生きててよ」 ね?っと織枝を覗き込むと、まだ納得しきれてないのか曖昧な笑顔を僕に向ける。
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