11人が本棚に入れています
本棚に追加
ふいに、僕は自分の体がほとんど消えかけてるのに気がついた。
不思議と慌てる事もない。
この世での、僕の役目は終わったんだと分かった。
「時間ね」
視界が一瞬真っ白になった。
初めてキラは天使なんだと思った。
背中には見たこともないような大きな、真っ白の羽根が生えているから。
時間、と聞いて僕の胸が嫌な音を立てて脈を打つ。
でも、僕が泣いてちゃダメだろ。
「じゃあしばらく…さよならだ」
精一杯の笑顔で、僕は織枝を振り返った。
「夜彦!」
空に向かい浮かび上がる僕を、織枝は涙の溜まった目で見上げている。
差し伸べられた手を掴もうとしたけど、もう触れないみたいだ。
すり抜けた手をぐっと握り締め、泣きそうな自分を押し込めた。
「また会えるよね?」
「毎日笑って、いい子でいたら会えるかもな」
そんな保証はどこにもないけど、もし、この約束が織枝の未来を照らすならそれでいい。
織枝がちゃんと生きられるようになればきっと、自然に忘れてくれるだろう。
それは寂しい事だけど、同時に嬉しい事でもある。
切ないけど、これが僕らの距離なんだ。
「だから…お願いだ…泣くなよ…織……」
最後に見たのは織枝の目から零れ落ちた涙と、笑おうとしたけど上手くいかなかった笑顔だった。
僕は今、天国までの渡し船に揺られながら三途の川を渡っている。
水面に月明かりがゆらゆらと揺らめくのをぼんやりと眺めていると、一つの疑問が頭を過った。
「なぁ、なんで僕だったの?」
初めて会った時、キラは僕に『かけてる』と言った。
その真意を確かめたかったんだ。
キラは船縁に腰をかけ、川のずっと先を見据えながら答えた。
「あたしね、実は落ちこぼれ天使なのよ」
何となくそんな気はしてたんだ、うん。
だってこいつ、全然天使らしくないんだもん。
「天使としての力を失いつつあったあたしが、本職に戻る為にさ迷える魂をちゃんと天国へ導いてあげる事…まぁ、修行みたいなもんね」
出来損ない天使に出会った事は、何と言うか、初っぱなから危なっかしかった訳だ。
ついでに出世道具にまでされちゃって。
最初のコメントを投稿しよう!