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「つまり僕は、いいように利用されてたんだ」
よく無事に事なきを得たなぁ、僕。
ボソッと呟くと、キラは苛立たしげにつっかかってきた。
「人聞きが悪いわね。あたしがいなきゃあんたも織枝も助からなかったのよ。感謝なさい」
偉そうな天使に礼を言う気にもなれず、僕はまたぼんやりと水面を見つめた。
ついに僕は天国に行くんだ。
織枝の事はとりあえず良しとしても、やっぱり色々心残りがあるなぁ。
最後に父ちゃんや兄ちゃんに会いたかった。
そんな余裕なんて無かったけど、織枝の風呂ももっと覗いときゃ良かったかな。
何より、キスくらいしたかった。
邪魔さえ入らなけりゃいけたのに。
…まぁ、17歳一般男子が考える事なんて結局こんなもんか、と一人苦笑した。
船は静かに川を上っていく。
死んで初めて気付いた、日常の大切さ。
何気ない日常にたくさん大切なものがあった事、死ななきゃ分からなかったかもしれない。
だけどやっぱり、死んじゃったら全てが終わる。
それさえも死んで初めて分かったんだ。
僕はつまらない生き方だったかもしれないけど、充分幸せだったと思う。
もし生まれ変わっても、もう一度同じような人生を歩みたいとか思ったりね。
「もうすぐ着くわ」
キラの声は、意識の遥か彼方で聞いたような気がする。
暖かい光で、僕は心地よく目を閉じた。
どうあがいても越えられない距離はいつか縮まるんだろうか。
だけど僕は、いつか必ず迎えに行くよ。
未来で待ってて。
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