七夕の奇跡

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七夕の奇跡

7月7日。 今年も七夕の季節が来た。 デパートには大きな笹が据え付けられていて、子供達が楽しそうに短冊に願い事を書き込んでいる。 夜彦に会えなくなって6年、私も毎年短冊に願いを込めては夜彦に会える日を夢見ている。 あの日夜彦は言った。 『泣かずに笑顔で…いい子にしてれば…』 その言葉だけが私の支えで、その約束があったから今までやって来れたんだと思う。 生き甲斐って言えば大袈裟に聞こえるかもしれないけど、私にはそれが全てだった。 友達には『いつまでも引きずるな』とか言われるし、頼んでもないのに男の子を紹介されたり…。 だけど引きずってる訳じゃない。 約束だもの。 いつか会えるかもしれない、そんな希望を持って生きるのはいけない事じゃないと思うんだ。 夜彦は嘘をつかない。 今年も私はちゃんと笑って過ごせたよ? だから今年も短冊を書く。 夜彦に会いたい── 今年こそ願いを叶えてね、天使さん。 私は今年大学を卒業して、このデパートのギフトコーナーで働いている。 昔はびっくりする程バカだったけど、こうしてちゃんと就職できた。 その事に周りがびっくりしていたっけ。 思い出し笑いを噛み殺しながら陳列棚の商品を並べ直していると、職場の先輩がカウンターで手招きしているのが見えた。 いそいそと駆け寄ると、受話器を私に手渡してくる。 「園生さん、って人から電話よ」 その名前を聞いて一気に冷や汗が出た。 慌てて受話器を受け取り、小声で電話の相手を叱った。 「仕事場には電話してこないでって言ったじゃない!私仕事してるんだよ?」 すると電話の向こうでケラケラ笑う声がする。 「いいじゃん!どうせヒマなんでしょ?」 電話の相手は高校からの友達の潤ちゃん。 高校卒業と同時に子供ができた潤ちゃんは、すでに2人の子持ちママだ。 主婦はこっちの都合なんかお構いナシで昼間から電話をかけてくるから困る。
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