七夕の奇跡

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「会いたいよ…」 呟いた時、生ぬるい風が頬を伝う涙をさらった。 優しくて懐かしい風だ。 胸の痛みに任せて、溢れる涙を次々流した。 私は気付かないでいた。 背後に感じる、濃い空気に混じった大好きな気配に。 「織枝」 名前を呼ばれてハッとした。 少し声は違うけど、その呼び方はとても懐かしくて、昔呼ばれていたそのものだったから。 振り返ると、見ず知らずの筈なのにずっと会いたくて仕方なかったその人にそっくりな男の子が立っていた。 目が合うと男の子はニカッと笑った。 「言っただろ?迎えに来るって」 その笑顔を私は知ってる。 あの頃毎日のように見ていた、私の大好きな笑顔。 幻覚ですら見る事のできなかった、待ち続けた人。 「夜彦…?」 名前を呼ぶと、幼くて若い男の子はおもむろに両手を広げた。 「おいで?」 視界が歪む。 気付けば私は男の子に向かって駆け出していた。 小さな体に受け止められると、あの時感じた温もりが伝わってくる。 あの人と同じ匂いがする。 間違いないと思った。 「待たせてごめん。遅くなってごめん」 そう言いながら私の髪を撫でるその人は、相変わらず小さくて生意気な男の子だ。 「夜彦なのね?」 男の子は力強く頷くと、幼い顔をくしゃっと崩して笑った。 ちゃんと触れる。 温もりも感じる。 それだけで十分だった。 「あ~もう!泣くなよ~」 私より随分年下の男の子になだめられながら、嬉しくて止まらない涙をいつまでも流し続けた。 ── ねぇ?どうしてここが分かったの? そう尋ねると夜彦は微笑んで言った。 ── 会いたかったんだ。どうしても。だから願ったんだ。短冊に願いを込めて。
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