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僕の好きな人
織枝は僕が小学三年の時に転校生としてやって来た。
まだ僕がバカで鼻たれ小僧だった頃だ。
僕の母ちゃんと織枝の母ちゃんが友達で、僕らは一緒に遊んだりした。
一番よくやったのはおままごとで僕はママ役、織枝がパパ役で…今考えればへんてこな遊びだと思う。
中学の頃母ちゃんが死んだ後は、よく織枝の家でご飯を食べてたっけ。
母ちゃんが死んだ時は悲しくて淋しかったけど、織枝はさりげなく一緒にいてくれた。
辛い時に限って、織枝は側にいてくれた。
いつだって、微笑みながら。
織枝は可憐で優しい女の子。
だけど少し夢見がちなとこがあって、それがまた可愛かった。
家族みたいに普通にいたけど、日に日に綺麗になっていく織枝が眩しくて。
いつも優しかった織枝が僕は大好きだ。
多分、小さな頃からずっと。
自分の気持ちに気付いた僕は、やっぱりバカだからすぐに伝えたくて。
あの日、織枝を呼び出したんだ。
梅雨に差し掛かったばかりの、蒸し暑い日に。
学校が終わってすぐ、僕は織枝の高校まで自転車を飛ばした。
織枝は優等生なのに、頭は致命的に悪かった。
名前さえ書けば受かるような女子高に通っている。
校門の前で織枝の姿を探した。
「夜彦?」
あぁ、そうだ。
僕の名前は夜彦といいます。
ヤヒコ、と読む。
変わった名前だとよく言われる。
「あ、お…織枝!」
ただ名前を呼ぶだけでドキドキした。
僕はなんて単純な生き物なんだろう。
緊張して噛みまくる僕を、織枝はクスクス笑った。
「どうしたの?帰ろ?」
自転車の後ろに座り、ごく自然に僕の腰に手を回してきた。
織枝の温度を背中に感じ、生ぬるい風を受けながら自転車をこぐ。
織枝の家が近づくにつれ、僕の緊張もどんどん膨れていった。
言わなきゃ。
「織枝!あのさ…」
言え。
今言わなきゃいつ言うんだ。
「ん?なぁに?」
「……今日、さ」
ヤバい、すげぇドキドキする。
早く言わなきゃ家に着いてしまう。
焦った僕は思わず口走った。
「今日パンツ何色?」
僕がこの後ボコボコにされたのは言うまでもない。
肝心な時に限って、僕はこんな事ばかり喋り出す。
バカだから。
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