僕の好きな人

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僕はボコボコで無事ではなかったけど、無事に織枝を送り届けた。 まだプンスカ怒っている織枝に、僕はやっと言いたかった事を口にする。 「あの…」 「夜彦」 言いかけた途端、僕らの声は重なった。 タイミング悪すぎる。 僕の声は聞こえてなかったのか、織枝は勝手に話し続けた。 「今日の夜、星が降るんだよ」 織枝はちょっと…エキセントリックな思考の持ち主だ。 星が降る、なんて事恥ずかしげもなく口にできるんだから。 いつまでも夢見る乙女な織枝が目をキラキラさせて僕を見る。 そんなとこが好きなんだけど。 「夜、公園で待ってるね」 そう言い残すと、ご機嫌で玄関までの階段を昇って、さっさと家に入って行った。 ピンクか…じゃなくて! 言いたい事も言えず、僕はしょんぼりして自転車をこいだ。 夜の公園とか、怖いし。 だけどこれは織枝に告白するチャンスかもしれない。 夜、公園、流れ星…。 こんな絶好のロケーションはない。 僕は持ち前のポジティブさでピンチをチャンスに変えると、一人夜のカミングアウト作戦を考えながら家路についた。 小雨が降る中、約束の公園へ向かう。 夜の独り歩き程怖い物はない。 僕は早足で公園へ急いだ。 空は曇っていて星一つ見えやしない。 雨が降った時点で既に計画はおじゃんになっている訳だが、織枝はきっと待っている。 早足は駆け足になり、僕の心を急かした。 織枝、待ってて。 すぐ行くから。 人も車も少ない田舎の夜道は街灯もまばら。 だけど遮る物はなく見通しはいい。 ふと顔を上げると、先々の信号が全て青になっていた。 まるで僕の未来にゴーサインを出しているかのように。 少し嬉しくて、僕は信号が変わる前に渡ってしまおうと走るスピードを上げた。 何で気付かなかったんだろう。 後ろから凄い早さで近づく車の存在に。 僕が横断歩道に差し掛かったと同時に、その車が曲がってきた。 眩しいライトに照らされて…そこから記憶は途絶えた。 最後に織枝の名前を呼んだ気がする。 僕はこうして、一瞬で、この世から姿を消した。
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