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僕がすべきこと
「思い出に浸ってるとこわるいんだけどさぁ」
苛立つ天使の声に、僕の意識は現実へと引き戻された。
天使は空気を読むって事を知らないらしい。
相変わらずご機嫌ナナメな様子はふてぶてしく、天使のクセに全くらしくない。
「あたし、話の途中なんだけど」
鋭い目付きはとても天使とは思えない迫力だ。
この天使がこれ以上機嫌を損ねる前にちゃんと話を聞いてやろうと女の子に向き直った。
「織枝を助けるって?」
僕が訝しげに尋ねると、天使は神妙な顔つきになり話し始めた。
「織枝は自分を責めてる。あの日あんたを呼びつけさえしなければあんたは死ななかったのに…ってね」
「あいつ…そんな事思ってんの?」
僕は死んでからまだ織枝の顔を見ていない。
落ち込んでいるであろう織枝を思うと、心が痛むのと同時にどこか嬉しい僕がいる。
僕が死んだ事を悲しんでくれているのかと、嬉しくなった。
「残された方は、そうやってみんな自分を責めるものよ」
天使はめんどくさそうに呟いた。
人間の感情はよく分からない、そんな感じに見える。
一つため息をつくと、天使は本題を切り出した。
「あんたは、織枝を許せる?」
「許すも何も…別に怒っちゃいねえもん」
僕は何も怒ってなんかいない。
死んじゃったのは仕方ない事だ。
突っ込んできた車と、どんくさい僕が悪いんだから。
やりたい事はまだまだたくさんあったけど今更どうしようもない。
僕が今怒り狂った所でどうにもならない。
と言うより、死んだって実感がないのが正直な所なんだけど。
「ならそれを織枝に伝えてあげなさい。この世に生きる人間の心残りは、あんたの魂をいつまで経っても縛り付けて蘇らせる事はできないんだから」
僕はバカだから、小難しい話を聞くのは苦手だ。
この天使の抑揚なく事務的な話し方は余計に難しく聞こえる。
「つまり落ち込んでる織枝を元気付けてやれって事?」
「人間の思いは強いものよ。現に死者の魂をこうして呼び寄せてしまう」
…答えになってないような気がするんだが。
僕が天国に行くとかそんなのはどうでもいいけど、僕の事でいつまでも織枝が落ち込むのはいただけない。
織枝にはいつも笑ってて欲しいから。
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