僕がすべきこと

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僕はとりあえず納得した。 難しい事は分からないけど、要するに落ち込む織枝を励ましてやって、笑顔にしてやればいい。 そういう事だろ? だけどここで、一つの疑問が産まれた。 「どうやって会えばいいんだよ」 僕はみんなには見えない。 触れる事もできないし、声も届かない。 こんな状態で、僕はどうやって織枝に会えばいいんだ? 小首をかしげる僕に、天使は更に注文をつけてきた。 「タイムリミットは一ヶ月よ」 「は?時間制限あんの?」 「もちろん。それがあんたが天国へ行く為の条件なんだから。たまには様子見に来てあげるから」 天使はニヤリと微笑むと、言うだけ言って姿を消してしまった。 天使って、もっと穏やかに微笑むもんじゃね? ありゃどう見ても悪魔の微笑みだよな。 僕は何のヒントもないまま、一人ポツンと残された。 僕は死んだ。 みんなからは見えない。 期間は一ヶ月。 …無理じゃね? とにかく、じっとしてても始まらない。 織枝の家に行ってみよう。 ふと辺りを見渡すと、僕は真っ暗な夜空にプカプカと浮いていた。 「うわああぁぁぁ!」 僕は高い所が苦手です。 暗い所も苦手です。 半べそかきながら、大慌てで向かったのは自分の家だった。 本能的に僕は自分の家に帰ってきてしまった。 時間は分からないけど、部屋の灯りは消えてひっそりと静まり返っている。 玄関を開けようと手を伸ばした時さっきの光景を思い出した。 すり抜ける腕…考えただけで背筋が凍る。 僕は幽霊とか苦手なのに、そんな僕がどうやら幽霊になってしまったらしい。 「男は度胸だ」 僕はすごくヘタレだけど、やる時はやる男だ。 目を固くつぶり、玄関の引き戸に思いきりダイブした。 怖いっ! ……何の感覚もない。 おずおずと目を開くと、僕の体はすでに家の中だった。 何だよ、ビビって損したぜ。 足音はしないけど足を忍ばせて仏壇を覗くと、普段は何もない和室に布団が三組敷かれている。 父ちゃんと兄ちゃんが、二人揃って大きないびきをかいていた。 カラッポの布団は、僕の布団だ。 いい歳になって家族揃って眠る事なんかなかったのに。 泣いていた父ちゃんの背中を思い出した。 僕は少しだけ切なくなって、カラッポの布団に倒れ込む。 今日は、今日くらいは三人で眠ってもいいよね。 僕は死んでから初めて淋しいと思った。
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