僕がすべきこと

3/7
前へ
/36ページ
次へ
幽霊というのは不思議な生き物だ。 ん?生きてないな…死に物? まぁ、とにかく眠らなくても平気だし疲れる事もない。 お腹も空かなければトイレに行く必要もない。 僕はすごく省エネ、省コストな物体となっていた。 ついでに幽霊はすごく便利。 壁をすり抜けたり、フワフワと飛んだり、行きたい所へ一瞬で行けたりする。 自分が幽霊だという事を除けば、こんなに楽な事はない。 僕は今、織枝の部屋にいる。 僕だって、死んではいるけど健全な17歳の男だ。 男なら誰もが憧れるであろう、好きな女の子のあんな事やこんな事。 今の僕にはそれが出来る! 色々触れないのは残念だけど、贅沢は言いません。 そそくさとお風呂場に行くと、バレないと分かっていてもさすがにドキドキした。 大きな期待と少しの罪悪感を感じながら、そろりと風呂のドアをすり抜ける。 ……。 僕、いつ死んでもいいかも。 もう死んでるけど。 織枝は長い髪を頭の上でまとめ、バスタブで小さく三角座りをしていた。 濡れた後れ毛が白い首筋に張り付いている。 女の子らしいラインの肩や背中は程よい丸みを帯びていた。 織枝…綺麗になったんだな。 少し疲れた表情に、僕は何だか急に織枝がいとおしくなった。 触れられないと分かりつつその頬に手を伸ばした。 すると、指先に微かな温もりを感じる。 え…? 「何っ!?」 織枝は驚いたように顔を上げ僕の方を見ている。 僕たちはしっかりと目が合っていた。 「ごめん!つい出来心で!」 バレたと思い慌てて謝る。 だけど僕の声は聞こえないのか、織枝は何事もなかったかのように湯船に体を沈めた。 何だよ…やっぱり届かないんじゃん。 こんな僕の声が織枝に届く訳ない。 僕の姿が織枝の瞳に映る事もない。 どんなに愛しくても、名前を呼んでも届かないし抱きしめる事だってできやしない。 うちひしがれる僕を、バスタブから出た織枝が通り抜けた。 僕に全く気付く事もなく、普通に。 それは予想以上にショックだった。 そして想像以上に辛かった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加