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幽霊というのは不思議な生き物だ。
ん?生きてないな…死に物?
まぁ、とにかく眠らなくても平気だし疲れる事もない。
お腹も空かなければトイレに行く必要もない。
僕はすごく省エネ、省コストな物体となっていた。
ついでに幽霊はすごく便利。
壁をすり抜けたり、フワフワと飛んだり、行きたい所へ一瞬で行けたりする。
自分が幽霊だという事を除けば、こんなに楽な事はない。
僕は今、織枝の部屋にいる。
僕だって、死んではいるけど健全な17歳の男だ。
男なら誰もが憧れるであろう、好きな女の子のあんな事やこんな事。
今の僕にはそれが出来る!
色々触れないのは残念だけど、贅沢は言いません。
そそくさとお風呂場に行くと、バレないと分かっていてもさすがにドキドキした。
大きな期待と少しの罪悪感を感じながら、そろりと風呂のドアをすり抜ける。
……。
僕、いつ死んでもいいかも。
もう死んでるけど。
織枝は長い髪を頭の上でまとめ、バスタブで小さく三角座りをしていた。
濡れた後れ毛が白い首筋に張り付いている。
女の子らしいラインの肩や背中は程よい丸みを帯びていた。
織枝…綺麗になったんだな。
少し疲れた表情に、僕は何だか急に織枝がいとおしくなった。
触れられないと分かりつつその頬に手を伸ばした。
すると、指先に微かな温もりを感じる。
え…?
「何っ!?」
織枝は驚いたように顔を上げ僕の方を見ている。
僕たちはしっかりと目が合っていた。
「ごめん!つい出来心で!」
バレたと思い慌てて謝る。
だけど僕の声は聞こえないのか、織枝は何事もなかったかのように湯船に体を沈めた。
何だよ…やっぱり届かないんじゃん。
こんな僕の声が織枝に届く訳ない。
僕の姿が織枝の瞳に映る事もない。
どんなに愛しくても、名前を呼んでも届かないし抱きしめる事だってできやしない。
うちひしがれる僕を、バスタブから出た織枝が通り抜けた。
僕に全く気付く事もなく、普通に。
それは予想以上にショックだった。
そして想像以上に辛かった。
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