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トボトボと家に帰ると、父ちゃんはテレビを見ながら晩酌をしていた。
その隣で兄ちゃんがゲームをしている。
いつも通りの風景だ。
僕がいない事を除けば。
父ちゃんは酔っ払ってゲラゲラ笑ってるし、兄ちゃんは必死になってゲームに夢中。
あまりに普通すぎて、僕は何だか悲しくなった。
僕がいなくてもそうやって笑えるんだ。
僕がいなくなったからって何かが変わる訳じゃないんだ。
僕が死んだ事で、僕の周りにいてくれた人達が落ち込むのは嫌だった。
そう思ってた。
頭では分かってたつもりなのに、実際に目の前にするとやっぱり辛い。
僕は泣きそうになって、慌てて部屋を飛び出した。
「親父、今…そこに夜彦がいなかった?」
「…何バカな事言ってんだ」
僕は何となく実感のないまま、死んでしまった後も普通に過ごしていた。
自分が死んだ事はちゃんと理解していたつもりなのに。
死ぬってこんなに淋しいものなのか。
僕だけが取り残されて、一人ぼっちになった。
淋しさがじわじわと僕の心に広がっていく。
次の日、僕は織枝に着いて一緒に登校していた。
少しでも僕の存在を感じで欲しくて、手をつなごうとしたり肩を組もうとする。
だけど僕の手は何度触れようとしても織枝の体をすり抜けた。
耳元で大声で叫んでも、織枝はぼんやりと前を見つめたままで振り向く事はない。
…淋しいじゃないか。
その時、後ろから織枝を呼ぶ声がした。
織枝は振り返ると、笑顔でその子に話しかける。
「おはよう潤ちゃん」
「織枝おはよ~。今日数学のテストだって知ってた?」
「え?そうなの?私勉強してないよ!」
「あははっ!織枝は勉強したってそう変わらないじゃん」
楽しそうに笑いながら歩く織枝はやっぱり僕には気づいてない。
僕が死んだ事、忘れちゃったのか?
お前、落ち込んでるんじゃなかったのか?
何でそんなに普通に笑えるんだよ。
何でそんなに楽しそうにできるんだよ。
僕は耐えられなくなって、その場から姿を消した。
「夜彦?」
「…織枝。夜彦君は、もう」
「だけど今、私の隣に…」
「バカな事言ってないで!早く行かなきゃ遅刻するよ」
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