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暫く聴いているうちに、その安らかな音色のせいか、彼は微睡んでいた。まだ聴いていたいという願いも、心音の前では無力であった。
目覚めると朝だった。女はもう起きていて、その心音を聴くことは出来ない。
気が滅入り、大きく溜め息をついた。
心音を聴くためには彼女が眠るのを待つしかない。ということは、何があろうと彼女と関係し続けなければならない。そう考えると更に気が滅入った。
女が甘ったるい声で「朝ご飯、何する?」と話しかけてきた。適当に「任せる」とだけ言っておいた。
最早彼にとって心音とは生きる意味、目標とさえなっていた。僅か一晩で彼は生きる意味を見つけたのだ。けれども、その代価も大きいように思われた。
トーストの焼けた匂いがする。テーブルに着くと、トーストとサラダの盛られた皿が出された。早く心音が聴きたい。そう思いながら彼は口にトーストを運んだ。
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