0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
凍てついていた。
春? 雪解け?
そんなもんがあるわけない。氷漬けだ。
寝起きの身体が永久凍土なみの体温をしているのは、昨日寝る前に母親の好物であるハーゲンダッツを黙って頂戴したせいであろうか。間違いなく違うだろう。
「朝、朝朝、朝朝朝朝朝……うがぁぁあああっ!!」
落ち着け俺。まずは現実を確認することから始めてみる。俺が支離滅裂に陥っている理由。そう、理由も無しに早朝から叫びだす人類はいない。
理由はある女のせいだ。文武両道、才色兼備。そして毒舌家。そんな彼女と付き合い始めて一ヶ月。手は繋いだ。キスはしてない。もちろん、それ以上も。
そして昨日、二人のこれから発展していくはずの関係は、唐突に終わってしまった。
「行きたくねえ。行きたくねえよぉ……」
さながら戦場に向かう戦争反対主義者。布団にくるまる俺は壊れた蓄音機となっていた。学校に行きたくない。他には何も思いつかない。いつだって失恋は俺のガラスの心を傷付けるのだから。
☆ ☆ ☆
高校三年になった。部活は帰宅部。どうあがいてもインターハイはない。ついでにいえば進路も決まってない。余談だが昨日は彼女にふられた。
夢も希望もありゃしない、とだいぶくたびれたブレザーを羽織る三年生三日目の朝。 鬱な気分を胸に玄関を後にする。四月の上旬とはいえいまだ町は肌寒い。違うか、俺のメンタルが氷点下をさしてるだけか。
風がひんやりしているが、太陽の日差しが燦燦とあたたかい。
イヤホンを耳に、入学当初から愛用のママチャリで学校に向かう。そろそろタイヤに空気を入れてやらないと。
どこからか桃色をした桜の花びらが舞い込んでくる。俺を避けるよう地面に着地。真横を駆け抜けた小学生に踏みにじられ、荒れたアスファルトと一体化した。
最初のコメントを投稿しよう!