prologue:黒猫の憂鬱

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   凍てついていた。  春? 雪解け?  そんなもんがあるわけない。氷漬けだ。  寝起きの身体が永久凍土なみの体温をしているのは、昨日寝る前に母親の好物であるハーゲンダッツを黙って頂戴したせいであろうか。間違いなく違うだろう。 「朝、朝朝、朝朝朝朝朝……うがぁぁあああっ!!」  落ち着け俺。まずは現実を確認することから始めてみる。俺が支離滅裂に陥っている理由。そう、理由も無しに早朝から叫びだす人類はいない。  理由はある女のせいだ。文武両道、才色兼備。そして毒舌家。そんな彼女と付き合い始めて一ヶ月。手は繋いだ。キスはしてない。もちろん、それ以上も。  そして昨日、二人のこれから発展していくはずの関係は、唐突に終わってしまった。 「行きたくねえ。行きたくねえよぉ……」  さながら戦場に向かう戦争反対主義者。布団にくるまる俺は壊れた蓄音機となっていた。学校に行きたくない。他には何も思いつかない。いつだって失恋は俺のガラスの心を傷付けるのだから。  ☆ ☆ ☆  高校三年になった。部活は帰宅部。どうあがいてもインターハイはない。ついでにいえば進路も決まってない。余談だが昨日は彼女にふられた。  夢も希望もありゃしない、とだいぶくたびれたブレザーを羽織る三年生三日目の朝。 鬱な気分を胸に玄関を後にする。四月の上旬とはいえいまだ町は肌寒い。違うか、俺のメンタルが氷点下をさしてるだけか。  風がひんやりしているが、太陽の日差しが燦燦とあたたかい。  イヤホンを耳に、入学当初から愛用のママチャリで学校に向かう。そろそろタイヤに空気を入れてやらないと。  どこからか桃色をした桜の花びらが舞い込んでくる。俺を避けるよう地面に着地。真横を駆け抜けた小学生に踏みにじられ、荒れたアスファルトと一体化した。
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