prologue:黒猫の憂鬱

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 なにやら不吉な予感がしなくもないが、これまで通い続けたいつもの通学路をゆっくりと突き進む。  横断歩道の赤信号で一時停止すると、隣に並んだ女子高生と目があった。背丈はほどよく見下せる程度の小ささ、まだ埃一つない新品のブレザー。これから伸ばすつもりの中途半端な長さの黒い髪。新入生だろう。今さら先輩面するつもりはないが、自分より下の立場の人間ができると思うと不思議と気分が良くなってきた。俺史上最高の笑顔を作ってみる。 「おはよう、新入生」 「キモ」  死神が首を鎌で引っ掛けてく幻覚が見えた。硬直。信号が青になると呪いの言葉を吐いた新入生は黙々と歩いていく。  正気に戻り、離れていく新入生を眺めながら最近の若いもんはとため息混じりに自転車のペダルを力強く漕ぐ。後ろから全力でぶつかりに向かった。ぶつかった。コケる新入生。笑う俺。 「痛っ…、死ね!」 「はっ」  見下し嘲りながら俺は再びペダルを漕ぐ。自転車の磨り減った前輪が起き上がろうとした新入生の背中に乗り上げる。短い悲鳴。這い蹲るその小さな背中を蟻のごとく踏み潰し、蹂躙して、俺は再び路面にタイヤを接地させた。去り際に振り返る。  車輪の跡が着いたうつ伏せの背中、面を上げる新入生の信じられないという視線が向けられる。世の中年功序列なんだという事実を教えるのも先輩の仕事である。かっこ笑。
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