prologue:黒猫の憂鬱

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 そんなアホな道のりを越え、校門前の桜並木までたどり着く。たいていの生徒が徒歩で登校なさる中を俺は空気を読まずチャリで颯爽と走り抜けた。  無惨に花びらを散らす桜たちを両脇に流し見ながら、群れる人を避けてののんびり両脚大回転。長いよ桜並木。どんだけ桜が好きなんだよ。別に俺も嫌いじゃないけどさ。 「ちっ」  そして聞こえた舌打ちの音。自転車の真横には見慣れた人格破綻者の無駄に整った顔が並んでいた。会いたくない人間リスト第二位に君臨する男との遭遇に胃痛がするのは気のせいだろうか。 「お前はロクに挨拶もできないのか?」  俺は魂までもが抜け出てしまいそうな重く長いため息を空気中に吐き捨てて悪態を吐く。樹陽は険しい眼光で俺を睨み、鼻で笑う。 「逆に聞くがお前は俺に爽やかな朝の挨拶を求めていろのか?」 「まさか。死ね」 「俺はお前を相手にしているほどヒマじゃないんでな。だからお前シネ」  人類未満の猿を相手に待つ人類はいないし、人類未発見の言語で死ぬ人類もいない。このキチガイ相手に会話なんてしたくもない。ここはまともに会話をしないという選択が正しい。もちろん他に選択肢なんてない。できうるならば神でも天使でも魔王でも悪魔でもニートでもなんでもいいから、誰かこいつの人格を音速で作り直してください、という叶う見込みが完全にない希望がある程度だ。  忌々しいこの腐れバカ相手に無言を決め込んでると、いつしか校門をくぐり校内に突入していた。幸運なことに駐輪場と昇降口は真逆の位置にある。腐れ縁の友人、水守 喜陽は徒歩で登校する生徒の群れに入り込む。 「クソ喜陽のばーか! 地獄に落ちろ!」  別れ際につかさず喜陽の背中に中指を突き立てながらの捨てゼリフを吐き捨て、俺は一気に逃亡。振り返らずにも感じる喜陽の冷たい視線。我ながら子供地味てるなと急に恥ずかしくなり蛇行運転。数人をひきそうになりつつも駐輪場に自転車を止めて校舎に向かった。
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