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瓦礫と灰で覆われた床。半壊した壁。面積の半分は穴の空いている天井を仰げば、途切れ途切れの空と剥き出しの煤けた梁が見える。私が少し動けば埃が舞い、室内の空気と混じり合う。
何処かの廃墟。名も知らない教会。崩れた街の中、かろうじて原型を留めていたこの建物に、私はふらりと足を踏み入れた。
死体がないことだけは幸いだった。そんな所で、祈りたくはない。それなら、その骸に対してまず祈りを捧げるべきであるし、でも、私は自分のことで精一杯で。他のヒトに気を遣える程、私の心に余裕はなかったから。
何人も、何十人も、何百人も。私の仲間は死んでゆく。
私は彼らの想いを背負い、志を継ぎ、戦わなければならない。それは望まれたことでもあり、また、私が自ら決めたことでもある。
それでも。
「女神様、私はもうダメなのかもしれません」
こんなこと、仲間の前ではとても言えない。
入口から続く乱れ倒れた長椅子の群れの、その奥側。ぽつんと置かれた教台と女神様の像の亡骸に向かって、私は歩く。半身が崩れ、立っていることが不思議なほど無惨な姿の女神様は、それでもなお、微笑んでいた。
羨ましい。そんなに強くあれたら、どれだけ楽になるだろう。
膝を落とし、私は跪いた。もう、自分で立つことにも疲れた。
「女神様。私は、私は――」
情けない。涙が止まらない。そんな自分に少しでも抵抗したくて、きゅっと目を閉じる。
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