0:煤と光のディパーチャー

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     無駄だった。後ろ向きの感情ばかりが頭の中を蹂躙して、私のちっぽけな誇りや使命感は目からどんどん溶け出ていた。  私は無力。例え皆から支えられていようと、そんな支えの上に立つ私はこんなにも矮小な一人の人間でしかないのだから。単純に悔しかった。そんな自分が、ではなくて、それを理解してしまっている自分が。 「……助けて、ください」  理性で留めていた筈の感情が堰を切ったように流れ出す。もう、止められなかった。  本当は知っている。路を切り拓くのは、祈りみたいな他人任せの儀式なんかじゃなくて、自分の行動と強いチカラ。知らない訳がない。だけど、理屈じゃないでしょう? 何かの戯曲なら、こんな時女神様が手を差し伸べてくれるのかもしれないけれど、でも、ここは現実で。女神様の像を見上げても、やっぱり何も変わらなかった。  ◆ ◆ ◆  そして、ここで祈っていてもやっぱり何も変わらない。それに気付くまでどれだけの間こうしていただろう。現状を客観視して、どんどん気が滅入ってしまうだけなのに。 「ふぅ……」  裾で涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がる。埃で服も汚れていたから、目の周りが黒くなってしまったかもしれない。でも、赤くなった目を隠すにはちょうどいいのかな。そんなことを考えると、少しだけ気が楽になったような気がした。弱音を吐くだけ吐いたからかもしれないけれど。 「ありがとうございました」  どんなに私が泣いていても、女神様は手を差し伸べてはくれない。でも、微笑んでいてはくれた。それがとても嬉しくて、私は無意識にお礼を述べていた。  行くしかない。やるしかないんだ。  悩んでいたって、いつかはその時が来る。それを選んだのは自分なのだから。悩んでもしょうがないのだと、今更ながらに気付いた。      
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