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「・・・ってなわけだから、じゃあな・・・まあ元気でやれや。」
髭をボリボリと掻きながらそれだけ言い残して、男はゆっくり車に乗り込み鍵を差し込む。
エンジンの騒がしさに驚いたのか家の塀にポツンと止まっていたカラスが何事だと言わんばかりにバサッと飛び立つ。
それをじっと見送る短髪の少年と、男の車に目をやるNIKEの帽子を深々と被る少年がいる。
(・・・あぁ、またこの夢か。)
その少年達を後ろからぎゅっと抱き抱える女性。
空はもう暗がりを落としはじめ、辺りを柔和な闇が足音もなく包みはじめる。
閑静な住宅街の細い道路を、冷たい風が走り抜ける。
人はそれを木枯らしとでも呼ぶのだろうが、幼いその少年にはまだ何もわからない。
季節は冬。
忘れもしない8年前の冬。
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