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空には黒い雲がたれ込めている。
車窓から窺う景色は殆ど黒一色で、深い影が建物を一層黒く染めていた。まるで影絵だ。不気味とも不吉ともつかない予感を感じながら、車が止まる。
「もう着いたのか」――焦燥が過ったが、見れば、車は信号に捕まっただけのようだ。安堵ともつかぬ息を吐く。
ふと、僕は運転席に座る瀬川さんの様子を窺った。
「なに?」
彼女は何でもない風に、いつもと同じ、飄々とした表情を見せている。
「なんでもないよ」
そう言いながら、僕は自分の腕をきゅっと握った。瀬川さんに危険が及ぶことはないだろうか。一瞬、鼓動が高鳴ったが、すぐさま、首を振る。
大丈夫、瀬川さんは巻き込まない。
彼女は何も知らないのだから。
これは僕の、そして、僕達の対決だ。
骨も軋むような静かな夜。
死んだような街の中で――
僕達は今日、
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