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「なら良かった。ねぇ、明日どこかに行かない?久しぶりに買い物したいんだけど」
キラキラ輝くティーレの瞳を見て、フィルは顔をひきつらせた。ティーレの買い物に付き合わされれば、ティーレの山のような買い物の持ち役にさせられるのはいつものことで、次の日は長いクエストが終わった後より疲れる。
それに、明日はクエストに行かなければならない。怒るだろうなとびくびくしながら、フィルはニコニコしているティーレに言った。
「あのな、明日なんだけど。俺、クエストが入ってて、しばらく帰れないんだ」
「……しばらく帰れない?」
ティーレの笑顔にヒビが入った。
「あ、ああ。隊商の護衛でさ、報酬が良くて……」
「へぇ、昨日帰るってちゃんと手紙で知らせたのに、おかえりとも言いに来てもくれないで、明日から長期のクエスト?」
ゴゴゴと、地響きが聞こえてきそうな黒いオーラを纏い、ティーレは氷のような冷笑を浮かべた。
「そう。あんたは私より、そんなにクエストが大事なの」
「いや、違うんだ。そうじゃなくて―――」
「もういいわ!あんたの話は聞きたくない!!」
そう言うと、ティーレは寮に向かって歩き出した。
「待って、ティーレ!」
「知らない!」
ティーレは寮の中に入ってしまった。扉がバタンと閉じて、ティーレの声が向こうから聞こえた。
「フィルなんて、だいっ嫌い!!」
「ティーレェェ!」
フィルの悲痛な叫びは、見事にティーレに無視された。
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