錆びれゆく街

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「パルマなら安心だな。よし、やる!」 「了解!さっそくマスターに言ってくる!」 タイラーはそう言うなり、廊下に飛び出して行った。 「あんな急がなくても、いいのになぁ」 呆れてフィルが呟くと、マティエがクスクス笑った。 「それがあいつの良い所だろ、唯一の」 「だなぁ」 今頃、タイラーはくしゃみしてるんだろうなと思いながら、フィルはベッドに倒れ込んだ。 「隊商のクエストだから、しばらくギルドに帰れないな」 「ティーレにちゃんと言っとけよ。じゃないと、こないだみたいに鬼の形相で追い掛けられるぞ」 フィルは両手で顔を覆った。ティーレとはフィルの恋人だ。 ティーレは裕福な農家の娘なのだが、自分の力を生かしたいと、わざわざ家出をしてギルドに入った変わり者だ。 変わり者と言えば、目の前にいるマティエもそうだ。荒くれ者が多い傭兵の中で、マティエのように冷静で涼しい顔立ちの者は珍しい。貴族の隠し子らしいが、本当の所はマティエがはぐらかすのでわからない。 まあ、この稲妻のライオンのギルドは、マスターであるジウスが生い立ちなど気にせず、自分が気に入った者を入れるので、他のギルドに比べ変わり者が多い。 フィルだって、ジウスに気に入られたお陰でこのギルドに入れたのだ。 とにかく、このギルドには色々あった者が多い。タイラーやティーレのように、自分の力を生かす為に入る者は珍しかった。
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