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俺は慌ててスーツ姿の男の前に走って頭を下げる。
「いらっしゃいませ!何かお探しですか?」
俺が声をかけると男はいや、と否定した。
「ここは『過去』を売っていると聞いたんだが」
そっち方面だったか。スーツ姿で骨董品を見るというのは少ないだろう。
「はい。その通りですわ。買いに来たと見ても?」
一人で納得して客をそっちのくにしていた俺に代わって椅子に座っていた佐穂が立ち上がり、応対する。
俺はというと後ろに下がって黙って成り行きを見守る。
「それでいい。平凡な俺の人生を変えるために買いたい」
男はきっぱりと言って目をギラギラさせる。
そこまで自分の過去を変えたいか。過去ではなく今を変えればいいのにと思うが、人はそう簡単にはいかない。
だからこの店があるのかもしれないと俺は最近そう思うようになっていた。
『過去』は変えられない。それ故に――――
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