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一目で判断できた。
何らかの薬がエリザに打ち込まれている。
正気を取り去り、幻で惑わし、都合のいい駒として、使う。
「…………ッ!!!」
ボブの怒りが、噴出する。
たった今牢屋の目前に現れた化け物へ、殴り掛かる。
「滑稽だな」
嗤う、ルジャン。
拳を、ボブのそれに真正面から叩き付ける。
…………鈍い音がした。
ボブの指から。
「がッ……!」
思わず後退する。
自分以上に頑丈な拳。骨があらぬ方向に曲がった痛み。それらによる身も凍るような戦慄。
戦闘狂を目覚めさせるには……充分だ。
が
エリザのスタンガンが、ボブの膝裏を捉えるが先だった。
「ッッッ!!!」
激痛。遅れて脱力する右足。
膝をつき、身動きが取れなくなる。
そこへ……頭部へ突きつけられる拳銃。
ルジャンのものだ。
「……何か言い残すことは?」
月並みな台詞を投げかける。
「…………」
己の敗北が決定した。
死が、決定した。
傭兵として生きると決めた時から覚悟していた瞬間。
ボブは笑う。
言い残したいことなどない。悔いもなければ命乞いの言葉もない。
ルジャンの顔を見据える。
眼光を突き刺しながら言う。
最期の、言葉を。
「クソ喰らえ、クリーチャー」
銃声。
古賀がこの場に駆け付けたのは、ボブともう1人の傭兵が帰らぬ人となった……その直後だった。
休憩所にて。
明彦とクレイの銃弾が止めどなく交差する。
拳が幾度もぶつかり合う。
言葉はいらない。
勝った方が、正義。
明彦は靴を床に擦り付けながら着地。クレイからの発砲を右宙返りで回避しながらマシンガンの引き金を引く。
「退く気はないか?アキヒコ=ミネザキ」
銃弾の合間を縫いながら横倒しになった自動販売機の陰に滑り込むクレイ。
「どうした?ママの加護を一身に受けた僕に恐れでもなしたか?」
「ちょっと何言ってるか分からない。君を殺せばティアナが悲しむだろう。穏便にファミリーの存続を明け渡すつもりはないのかと聞いている」
「断る。僕自身、命に代えてでもこのファミリーを潰さなければと考えているんだ。譲る気はない」
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