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と、その時。
「土方さん失礼しますよー……え、何この空気」
襖が開いて首をひょっこり覗かせたのは永倉。入って早々何だかあまり良くないことが起こっているのだと感じ取ったのか、クッと眉を寄せる。
「……何の用だ」
「いや、土方さんじゃなくて小夜に用があるんだけどさ。勘定方が食費に関して相談したいからって呼んでる」
「あ、分かりました!えっと……どちらにいらっしゃいますか?」
「広間。大分煮詰まってるから茶でも出してやって」
「了解です」
そして小夜は、一礼して去っていった。
もう見えなくなった小さな後ろ姿を網膜に焼きつけて、永倉は土方に向き直る。
「何やったんですか」
その不思議な光を宿した眼が、どこか責めるような、それでいて呆れるような色を含んでいるような気がして。
「……何でもねぇよ」
意地からこう答える他なかった。
「ま、土方さんの事情なんてどうでもいいんですがね」
それはそれでちょっと傷つく。
「ただ」
永倉の纏う空気が一変した。急激に鋭くなった眼光が土方を貫く。
「小夜を傷つけるようなら、おれはあんたを絶対許さない」
それだけを言うと、彼は部屋から出ていってしまった。
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