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「んん…」
「逆効果なんだよ」
弱くもがく腕も、小さく動いて抵抗する頭も、漏れる掠れた声も。
今この状態で成す彼女の行動の全てが土方を欲情させる。
頬を舐め、啄んでいた唇を離しゆっくりと上体を起こす。絡めた指をそのままに腕を引き寄せ、その細い手首に口付けを一つ。
チラリと小夜を窺えば、その桜色の唇に目を奪われた。
(……ダメだ)
彼は小夜の過去を知っている。彼女が恐れている行為をするべきではない。
分かっている。判っている、のに…。
手が、とてもゆっくりと、しかし確実に彼女の方へ伸びる。どれくらいの時間をかけて、ついに顎に辿り着いた。そのまま顎を支え、その唇に捕らわれたまま小さく謝罪する。
「悪ぃ…」
彼女が傷つくと知っているのに、もう抑えることなんて出来なかった。
「……小夜…」
徐々に狭まる距離。吐息が触れるごとに土方は目蓋を閉じていく。
唇と唇が触れ合うまで、あと三寸。
苦しい胸、逸る気持ち。欲しいという願望。それがもうすぐ、満たされる――はずだった。
「……ん………ほわっ何やってるんですか!?」
小夜が、起きた。
先程とは違いぱっちり開かれた黒曜の双眸に至近距離で見つめられ、土方は蒼白になる。
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