神田縁の朝

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   ★  ★  ★ 「じゃ俺そろそろ行くから。今日はバイトで遅くなるけど晩御飯は家で食べる」  白ちゃんに餌をあげ、寝かしつけた(そこまでする必要はないと思うけど)銀ちゃんは席から立ちメッセンジャーバックを肩から下げた。  彼、神田銀次21歳は現在大学3回生、そろそろ就職活動を本格的に始動する前段階であり非常に忙しい年齢なのだ。 「ん、わかった。気をつけてね」 「銀兄ちゃん、いってらっしゃい」 「銀兄、いってらっしゃーい」 「気ぃつけてなーいてらー」  四者四様。各人の個性の出る見送り方に対して銀ちゃんは軽く手を上げ、リビング、ひいては我が家をあとにした。 「はてさて。みなさんもそろそろ出ないと、遅刻しちゃうよー?」  お化けでも出るようなポーズで僕はおどけながら3人に登校を促す。  この3人は家から徒歩で通える距離にある私立の高校に在学中であり、かく言う僕も銀ちゃんも、その高校の卒業生にあたる。 「もう8時前やん! 行くで! 優っ、姫っ」 「ま、待ってよ、黒兄!」 「お姉ちゃん、カバン! カバン忘れてるよっ」  そうバタバタと騒々しくリビングを出ていく3人の後を少し遅れて僕もリビングを出て玄関へ。 「じゃあ3人とも。気をつけていってらっしゃい」  僕が言うと、三重になった元気な声で「いってきます!」と返ってくる――しかし高校生ってこんな無邪気なんだろうか。  ばたん、と玄関のドアが閉まると急に家の中が静かになった気がした。いや本当に静かなんだけれどもね。  まぁ、神田家の朝はこんな感じで日々騒がしいのが仕様となっている。さっきも言った通り両親は今いないし、もう一人、僕の上に姉がいるんだけれど、この姉というのは両親のDNAを最も色濃く受け継いでいるようで彼女もまた現在は外国に留学(何を学んでいるかは不明)している。  この先、両親や姉が帰ってくると更に騒がしくなるんだろうかと思い、僕は少しばかり頬が緩んだ。――――そんな僕の想像を絶する騒々しさが近い将来、本当にやってくると知らない今の僕は、とりあえず洗い物に取り掛かるのだった。
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