神田縁の朝

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 リビングへと入ってきた銀ちゃんは慣れた手つきでコーヒーメーカー(もっぱら銀ちゃん専用機である)を使い、本日のコーヒーを作りながら言う。 「で、絶兄。何してたんだ?」  何をしてたのか、この質問は今の僕にとって最もデリケートな部分をえぐる質問と言っても過言ではないだろう。正直に、妹たちの下着について考えて身もだえてました―――なんて、言えるわけがない……ッ!  ここで僕の頭はフル回転する。人間のとっさにする言い訳ほどほつれやすい物はないけど、あんなことを考えていたなんてバレたら、僕の家族内での長男としての立場が消え失せてしまうからね! 口から出まかせを言うのではなく、やんわりオブラートに包み隠すのだ! 「いやね、もう優ちゃんも姫ちゃんも大きくなったんだなーと、ふいに感じたんだよ。ふふ、成長って早いなぁ」 まさしくオブラートッ! かつ嘘も言っていないッ! でも最後のほうは何だか僕のキャラっぽくないのを自分でも気付いたのもまた事実ッ!  ―――そんな僕の考えは知られることもなくコポコポと。コーヒーメーカーから発するリズミカルな音と、部屋に漂いだした銀ちゃんが選んだキリマンジャロ産の豆の香りが優雅な朝を演出する。その落ち着いた雰囲気と対照的だった僕のテンションも徐々に平静を取り戻す。 しかし、そのコーヒーメーカーの調子を見ながら銀ちゃんは落ち着き払った声で 「あぁ、たしかに大きくなったな。胸とか」 とんでもないことを言うのだった。
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