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あたしは、指輪をしていないマサルの薬指を、見なかったことにした。
そう、あたしは何も見ていないのだ。
それに、あたしはマサルになんか振られない。
『マサルにね…話したいことがあるんだ…』
クラブハウスサンドを食べ終えたマサルに、タイミングよく話しかける。
そんなあたしのキッシュは半分以上残されていた。
あたしはマサルになんか振られないよ?
『別れて欲しいの…ごめんなさい…』
だって、あたしが振るんだから。
きょとんとしたマサルの顔をそのままに、あたしはその場をあとにした。
後ろからマサルが何か叫んでいたような気がしたけれど、あたしの耳には届かない、ということにした。
あたしに追いつくことができなかったマサルから、途中で何度も何度も電話があったのだけれど、着信拒否にしてメールも受信できないようにした。
それでも会社では会ってしまうのかしら?
家に来られたらどうしよう?
まぁ、川崎さんと仲良くやればいいじゃない。
でも川崎さんの勝ち誇った顔は見たくないな…
あたしは、カップルでにぎわう帰りのゆりかもめの中で真剣に悩んだ。
会社も辞めて、ココからも消えてしまえればいいのに…
そうか、会社も辞めて、ココからも消えてしまえばいいのだ。
あたしは自分の思いに妙に納得し、慣れた手つきで軽快にメールを打ち始めた。
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