【本編】

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「ひかり 369号 岡山行き」 今、あたしは新幹線の中にいる。 あたしの身体は今、大阪に向かっているのだ。 昨日は、案の定マサルが家までやってきて、何度もチャイムを鳴らしたけれど、決してあたしは出なかった。 だって荷造りでそれどころではなかったし、マサルを早く新しい彼女の元へ行かせようとする、あたしの優しさでもあった。 新幹線のスピードは、あたしの気持ちに拍車をかける。 アツシの元へ… …早く行きたい 窓の景色は人間の心のようにコロコロと変化していった。 ずっと変わらない心なんてあるのだろうか。 あたしは、ガラスの向こうにあるふたつの大きな山に視線をやった。 そんなものは、ないような気もするけれど、あたしとアツシにだけは存在するような気がした。 あたしが品川から乗った「ひかり号」は、新横浜・三島・静岡・浜松・名古屋と停車し、次は京都駅へと向かっている。 京都駅で停車をしたら、次は目的地の新大阪だ。 あたしもアツシも、お互いの容姿を何も知らない。 声すら聴いたことがない。 メールで得た情報なんて、意外とちっぽけなものだなと思ってしまった。 それでも、運命の歯車は2人を引き寄せ、回転しようとしているのだ。 そんなことをふと頭の中で思い浮かべたとき、車内アナウンスが目的地を告げた。 そして、あたしはおもむろに携帯を取り出し、メールを打った。 ―――――――――――― To:アツシ ―――――――――――― sub:Re ―――――――――――― もうすぐ着くよ。 蘭子 ――――――――――――
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