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アツシからは「中央出口で待ってる」という内容の返信が来た。
グレイのジャケットに黒のパンツで、髪の毛は立てているそうだ。
あたしは「オレンジ色のキャリーケースを目印にして」と送り返した。
大学の卒業旅行で海外に行ったときに1度だけ使ったキャリーに、とりあえず1週間は生活できるくらいの洋服などを入れて持って来たのだ。
生活に足りないものは大阪で買い揃えればいいと、必要最低限にしたつもりなのだけれど、キャリーにはたっぷりと荷物が詰め込まれていた。
一方、あたしという人間を、ひとり丸々と運ぶ新幹線は、徐々に低速し、とうとう「新大阪」の駅へとあたしを降ろした。
…着いた
あたしは、鼓動が高鳴り、脈が速まり、変に高揚した、妙な精神状態になっている自分を確かめるように、ホームの鏡を覗き込んだ。
そして、ハンドバックからグロスを取り出し、唇に艶を入れる。
これからあたしは「メル友」のアツシと会うのだ。
鏡に映る自分に語りかける。
もう「メル友」ではなくなってしまう。
しかし、今日から新しい関係が始まるのだ。
それがどんな関係なのかはまだわからないけれど、悪いものではないことは確かだ。
あたしは、キラリと輝く素敵な予感に想いを馳せながら、キャリーと共にエレベーターに乗り込んだ。
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