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新大阪駅からさらに電車で20分。
そこにアツシがひとりで住んでいるアパートがあった。
『おじゃまします…』
おそるおそる踏み入れたその先には、いかにも男の部屋といった感じの空間があたしを招き入れた。
「散らかっててごめんな」
『いえ…』
あたしの身体に、1度は忘れていた緊張感が再び戻ってきた。
いくら5年もの間「メル友」だったとはいえ、あたしはさっき初めて会った男の人の部屋に入り、しかも一緒に暮らそうとしているのだ。
それは何を意味しているのか、さすがのあたしにもわかる。
それに…
アツシがあたしの姿、形を見て、どう思っているのかが少し不安だった。
「座らへんの?」
ぼーっと突っ立っているあたしにアツシが話しかける。
『あ、座ります…』
あたしは近くのソファーに腰を下ろした。
「なんで敬語なん?メールだとタメ口やんか~」
アツシがくすっと笑う。
「まぁ、そのうち慣れるわ」
そう言いながら、アツシは煙草をくゆらせた。
確かにメールではタメ口なのだけれど、アツシはあたしよりも2つ年上だし、初めて会ったということもあって、なかなか敬語から抜け出せないでいた。
ふいにアツシがあたしの顔を見る。
「蘭子ちゃん、かわいいよな…」
アツシの口から何気なく漏れた言葉を、あたしは聞き逃さない。
あたしのハートは「きゅうん」と音を立て、底の見えない恋の海に、見事なまでに落ちていった。
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