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「12時にゆりかもめ」
あたしは、多くの人が待ち合わせをしている、他線とゆりかもめを繋ぐエスカレーター下のスペースで、マサルを待っていた。
マサルとは同じ会社の同期だ。
交際して約2年、入社後まもなくして付き合ったことになる。
同じ部署になったマサルを、あたしはちょっとタイプだなぁ~と思って見ていた。
色白い肌、ひょろっとした身体のライン、知的アイテム黒ぶちメガネ。
声は思ったより低かったけど、そこもまた惹かれるところだった。
「ゴメン、遅れた?」
『ううん、全然!』
不意に現れたマサルに、あたしはきらめく笑顔を放った。
「ちょっと、振込みしたくてATMに寄ったら混んでてさぁ」
『ふーん、なんの振込み?ケータイ?』
「いや、なんでもないよ」
『そう…』
そういえば前のデートのときにもATMの話が出てきたなぁと、ふと思い出した。
「行くか」
『うん』
あたしは先を行くマサルのあとをすぐさま追いかけ、左側をキープした。
これは、あたしとマサルの決まった立ち位置だ。
なぜだかあたしは、左側にいると落ち着く。
まだあたしたちが新入社員だった頃、マサルと2人で終わりの見えない残業作業を途中で切り上げ、ごはんを食べに行ったことがあった。
そこであたしは、マサルから交際を申し込まれ、迷うことなく了承したのだ。
その帰り道、家まで送ると言ったマサルが、あたしを左側において腰に手をまわした。
その快感が、マサルの左側にいるその心地良さが、ずっとあたしの身体に染み付き、離れないのだった。
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